本研究では平成2〜3年度に、上顎無歯顎印象採得時の手指圧および粘膜の受ける印象圧、粘膜触診時の触診圧などの測定を行っている。 平成4年度は、印象圧下における無歯顎粘膜の被圧変位性を明らかにすることを目的に、まず上顎無歯顎粘膜の被圧変位量を計測した。その結果、平均被圧変位量は、100gw/cm^2加圧時に、0.32〜0.61mm、300gw/cm^2加圧時に0.42〜0.91mmであり、口蓋正中部で最小、口蓋側方部で最大であった。平均被圧変位率は、100gw/cm^2加圧時に、13.5〜20.7%、300gw/cm^2加圧時に18.5〜28.3%であり、大臼歯部で最小、切歯部・犬歯部で大きかった。また前歯部では粘膜弾性評価別に被圧変位性に差が認められ、100gw/cm^2加圧時の平均被圧変位量は、高度のフラビー、中程度のフラビー、弾性的と診断された症例ではそれぞれ0.22、0.48、0.66mmであった。次に印象圧範囲内での粘膜の被圧変位性を表す指数として、被圧変位指数を定義した。被圧変位指数とは粘膜の加圧量-被圧変位量の関係から加圧量100gw/cm^2以下のデータのみを用いて算出される指数である。検討の結果、被圧変位指数は、100gw/cm^2以下の加圧における粘膜の変位のし易さを表すと同時に、100gw/cm^2加圧時の被圧変位量および変位率をかなり的確に表し得ること、また100gw/cm^2加圧時の被圧変位量および変位率を求めれば、印象圧範囲内における粘膜の性質をある程度評価し得ることなどが明らかになった。被圧変位指数を応用することにより、臨床的な粘膜評価が可能となり、印象圧コントロールの指標および被圧変位性による粘膜の分類などに有効であると考えられる。
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