本研究は、上顎無歯顎粘膜の印象圧範囲内における被圧変位性を明らかにすること、さらに臨床における印象圧と関連した簡便な粘膜評価法を検討することを目的としている。 これらの目的を達成するため、上顎無歯顎印象採得時の手指圧および粘膜の受ける印象圧、粘膜触診圧、上顎無歯顎粘膜の被圧変位性などの計測を行った。 まず、一般的な粘膜評価法である粘膜触診時の、手指による加圧力および加圧面積を計測し、被圧変位性測定時の加圧条件を決定した。ついで、上顎無歯顎印象採得時の印象圧をシミュレーションモデルで計測した。また、Bモード超音波診断装置を利用し軟性加圧子を備えた被圧変位測定システムを新たに考案し、上顎無歯顎粘膜の被圧変位性の計測を行った。 得られた結果から印象圧範囲内での粘膜の被圧変位性を表す指数として、被圧変位指数を定義した。被圧変位指数とは粘膜の加圧量-被圧変位量の関係から加圧量100gw/cm^2以下のデータのみを用いて算出される指数である。検討の結果、被圧変位指数は、100gw/cm^2以下の加圧における粘膜の変位のし易さを表すと同時に、100gw/cm^2加圧時の被圧変位量および変位率を求めれば、印象圧範囲内における粘膜の性質をある程度評価し得ることなどが明らかになった。被圧変位指数を応用することにより、臨床的な粘膜評価が可能となり、印象圧コントロールの指標および被圧変位性による粘膜の分類などに有効であると考えられる。
|