粘膜負担様式の義歯にあっては義歯床を介して咬合・咀爵圧を床下組織が負担することになるが、床下組織への力量は配分は床下粘膜と義歯床基底面との適合性もさることながら、床下組織の粘弾性の部位差が咬合・咀爵圧の分布に影響すると考えられる。また、顎堤の形態および粘膜の性状によって咬合・咀爵圧の分布の様相が異なる。そこで平成3年度は床下粘膜に着目し、粘膜の物理的性状を把握するために粘膜を加圧し変位させた後の粘膜の動態を取り上げ、この調査を行った。 〔方法〕加圧変位解除後の粘膜の復元状態を計測する装置は非接触型変位計測装片(KAMAN社製 MODEL KD2310)を応用して製作した。 計測部位は、21〜27歳の健全な歯列を有する有歯顎者5名および28〜75歳の下顎臼歯部に歯牙欠如部位を有する被験者6名の口腔粘膜とした。粘膜の性状の分析にあたっては、加圧変位解除後の粘膜の急速的な復元時の速度を復元速度、この時の粘膜が加圧前の状態に戻っていない変位量を末復元量および加圧変位解除から加圧変位前の状態に戻るまでの時間を復元時間として、それぞれを計測した。 〔結果および考察〕1.復元速度、末復元量および復元時間の計測結果は、被験例間および計測部位間で違いが認められ、欠如症例の塗膜部の方が有歯顎被験例よりも差が顕著であった。2.各計測結果を被験例の年齢から検討した場合、若年者群と高齢者群とで復元の様相に違いが認められた。3.各計測結果と被圧変位量とに特に一定の傾向は認められず、粘膜の物理的な性状を分析するには粘膜の厚さなどの床下組織の構造や歯牙の欠如の時期、義歯の使用の有無などからの検討の必要性が示唆された。
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