粘膜負担様式の義歯にあっては義歯床を介して咬合・咀嚼圧を床下組織が負担することになるが、床下組織への力量の配分は床下粘膜と義歯床基底面との適合性もさることながら、床下組織の粘弾性の部位差が咬合・咀嚼圧の分布に影響すると考えられる。また、顎堤の形態や加齢変化にもとづく粘膜の性状によっても咬合・咀嚼圧の分布の様相が異なるものと思われる。 高齢者に見られがちな著しい吸収をした顎堤への対応の一つとして歯槽堤増高術がある。この臨床術式については、人工合成移植材の無菌顎堤への埋入による臨まれる形態付与を得るための臨床術式の手術に改良を加え、一応の成果を得ることができた。 さらに人工合成移植材埋入のより好ましい臨床術式の確立のために、補綴学的な立場からの基礎的調査として、顎堤に義歯床を介して咬合・咀嚼圧がかかった場合の分布状態を模型実験によって把握し、さらに若年者および高齢者の顎堤を覆う粘膜の性状についての調査を行った。 その結果、臨床的に好結果が得られている顎堤の形態を付与した歯槽堤でも粘膜の厚さが異なると、圧の部位差が出現し、圧の局在化による粘膜部の疼痛の発現や顎堤形態の変化の危険性のあることがわかった。また、粘膜の性状は症例、部位および年齢群によって違いがあり、高齢者の粘膜は若年者のものと異なっていることが明らかとなり、人工合成移植材埋入の手術施行後の義歯作製や義歯調整に関する臨床的対応についての示唆を得ることができた。
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