筋長の変化が筋電図のパワ-スペクトルに影響を及ぼすことは、すでに四肢筋や咀嚼筋の閉口筋群で以前から知られており、顎二腹筋前腹では筋長の変化の影響を受けないことが報告されている。しかし外側翼突筋についてはそれらについて詳細に検討した研究はない。そこで開口筋である外側翼突筋が、筋長の変化によりEMGの周波数がどの様に変動するのか検討する目的で、同筋下頭の筋長(下顎位)を変えて、等尺性筋活動を筋電図的に観察した。 正常有歯顎者6名につき、上下顎にレジンシ-ネを装着し、下顎を前方または側方に、中心咬合位付近、最大偏心位およびその中央の位置で等尺性最大随意力の1/2の強さで、押し出し運動をさせ、両側の外側翼突筋下頭からfine wire electrodesを用いて、口内法にて筋電図を誘導、記録した。得られたEMGからパワ-スペクトルを求め、平均周波数を算出し、筋長との関係を統計的に解析した。その結果、前方押し出し時の外側翼突筋の筋電図は、その筋長を変化させても、パワ-スペクトルの平均周波数に有意の変化を認めなかった。また、その傾向に左右の筋において差はなかった。さらに等尺性側方押し出し時においても対側筋は同様の傾向を示し、本筋においては筋長の変化が、筋電図の周波数にほとんど影響を与えないことがわかった。 以上の結果は、顎二腹筋前腹における等尺性開口時の周波数変化と同様の傾向であり、四肢の伸筋群、届筋群や閉口筋である咬筋、側頭筋とは異なる結果を示すことから、開口筋にのみ認められる筋電図的特徴と考えられた。
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