唇顎口蓋裂児の乳児期の叫喚音声の音響特性と鼻腔共鳴量、及びそれらの発達的変化を調査した。また、それに先立って、KAY社製Nasometerの有効性について予備的に調査した。 〈方法〉1.予備的調査は3歳から7歳までの口蓋裂児30例から得た5母音をNasometerを使用してnasalanceを計測し、3名の言語治療士による聴覚判定と比較した。2.生後1カ月以内にHotz床を装着した口唇、口蓋ともに未手術の片側唇顎口蓋裂乳児3例(男2例、女1例)と片側唇顎裂男児1例を対象とした。生後0カ月から6カ月まで毎月1回叫喚音声を録音して、1)同一月齢の唇顎口蓋裂児のHotz床装着時と撤去時および片側唇顎裂児の3種の音声をランダムに配置したサンプルテ-プを3名の言語治療士に提示して、3種の何れの音声であるかを識別させた。2)ソナグラフを用いて音響学的分析を行った。3)音声の採集時にNasometerを用いてnasalanceを測定した。〈結果と考察〉1.nasalanceと聴覚判定とは相関がみられ、さらに聴覚的判定でとらえられない僅少の差を測定する事ができた。2.1)聴取識別実験では唇顎口蓋裂児と唇顎裂児との識別は4カ月以後正答率が上昇していたが、Hotz床の有無の識別については正答率に差は認められなかった。2)ソナグラム上唇顎裂児は吸気時と排気時の音声が明瞭な一対を形成したりリズミカルな音声で、早期に安定したフォルマントを獲得し、また、1呼気の発声持続時間は全検査期間を通じて有意に長かった。3)nasalanceは唇顎口蓋裂児ではほぼ変化なく推移していたが、唇顎裂児では生後4カ月以降唇顎口蓋裂児と有意な差が認められるようになった。口蓋裂による鼻咽腔閉鎖機能不全は音響解析上では早期から叫喚発声に影響を及ぼしていたが、聴覚印象とNasometerによる調査では生後4カ月以降に鼻咽腔閉鎖獲得児との差異が明確になっていた。
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