歯科臨床において、緊張緩和の目的でベンゾジアゼピン系薬剤による静脈内鎮静法が広く行われている。ジアゼパムは好中球機能を抑制する作用を持つことが指摘されており、われわれは静脈内鎮静法を行う際にも一時的に好中球化学発光が低下する可能性のあることを報告してきた。好中球化学発光は食細胞に特異的なス-パ-オキサイド生成酵素であるNADPH oxidaseが活性化され、急激な酸素消費がおきたときに見られる。ジアゼパムによる好中球化学発光の抑制は、その溶媒によるところが大きいという報告もあるが、その作用機序は明らかでない。そこでこれらの溶媒を含まない水溶性ベンゾジアゼピン系薬剤であるミダゾラムについて好中球化学発光へ及ぼす効果を測定し、ジアゼパムでの効果と比較して、これら薬剤がNADPH oxidase活性を抑制する機序に対する推測を行った。化学発光の測定は正常人末梢血から分離した好中球を用い、in vitroで行った。膜刺激剤として血清処理ザイモザン(OPZ)とphorbor myristate acetate(PMA)を使用し、ルノミ-ルを加えてATP photometerにて化学発光を測定した。10〜80μg/mlの濃度のミダゾラム添加によりOPZおよびPMAの両刺激剤とも濃度依存性に減弱した。ジアゼバムと同様の傾向であるが、減弱の程度はミダゾラムが軽度であった。40μg/mlの濃度のミダゾラムおよびジアゼパムについてwash out前後の化学発光を測定した。その結果、ジアゼパムではOPZ、PMAともいったん減弱した化学発光は速やかに回復したのに対し、ミダゾラムではPMAにより速やかに回復するが、OPZではwash outによる回復は認めなかった。これらのことから、ジアゼパムとミダゾラムではNADPH oxidase活性化を抑制する機序に差異がある可能性が示唆された。好中球のCaイオン濃度については今後検討する予定である。
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