顎顔面頭蓋に奇形と有する患者では、顎顔面頭蓋の成長発育において著しく特異な様相を示すため、咬合にも異常を生じ、種Rの障害を引き起こし臨床上の問題となる。本研究は、顎顔面頭蓋の形成不全に起因する形態異常を持つ疾患モデル動物を作製し、そのような個体の特異な成長発育の様相について解明していく事を目的とした。初めに催奇形物質による奇形発現の実験を行い、発現した奇形の様相の観察と、出生後の生育の可能性について検討を行った。即ちラット母獣にアルキル化剤を投与し、娩出された仔ラットにおける奇形の発現の有無について肉眼的観察を行った後、透明標本を作製して奇形発現の部位についてさらに詳細に観察した。その結果、仔ラットには口蓋裂、小下顎を呈する個体が認められたが、臓器等の重篤な奇形も伴っているものと思われ、出生後の生育は望めなかった。次に、顎顔面部に限局した奇形を作製する目的で、胎仔外科の手法を応用した実験を行った。妊娠17日目のラット母獣を開腹し、子宮内のラット胎仔の鼻部を子宮壁より露出させ、熱しに針金にて口唇、歯槽部に熱傷を与えた後、もとにもどして縫合した。この結果、自然分娩しに仔ラットについて観察すると、胎仔手術を施した個体は口唇部に裂隙がある事以外は体型、体重、行動とも同腹の他の個体と同じであり口唇部の奇形以外の異常は無いものと思われた。組織標本の観察では、胎仔手術をした個体においては、上顎骨、上顎歯槽骨および上顎切歯歯胚の部分的破壊、鼻腔と口腔の一部交通が認められ、唇顎裂のモデル動物として使用できる可能性が示された。胎仔手術を施した仔ラットは吸啜を行わず生後2日たって死亡したが、人工哺育は可能と思われ、今後、顎顔面頭蓋に奇形を有するモデル動物として成長発育を検討する実験に使用する事が可能と考えられた。
|