乳歯における修復後のトラブル発生は、永久歯に比べて非常に多い。その理由に乳歯そのものの特性に加えて修復法が永久歯に準じて行われていることも考えられる。そこで、従来の乳臼歯の窩洞形態について、窩底下象牙質の厚さと窩洞の深さから、再検討を行ってみた。研究方法は、抜去乳臼歯を用い、窩洞形態は咬合面中央でエナメル質表面から1.5mmの深さで、窩洞幅は頬舌側咬頭頂間距離の1/3とし、側室における歯肉壁の幅が1mmの2級窩洞とした。それぞれの歯をエポキシ樹脂に包埋し、表面を角柱に形成後、5方向から写真撮影し、10倍に拡大した陽画を作成した。一方、包埋ブロックは、その後、頬側から舌側方向へ93μmの連続切片に作成し、それぞれの切片を万能投影機で10倍に拡大し、窩洞ならびに髄室に外形をトレ-スした。それらをさらに、パ-ソナルコンピュ-タで再構築し、すでに作成しておいた陽画上から、同一歯について任意の観察部位を頬舌側、近遠心の2方向から選択し、選択された画像上で、窩洞と髄室との最短距離を測定した。また、新しく考案した窩洞形態では、すでに報告した歯質の厚さを参考にして、窩底下歯質ならびに窩洞の深さが1mmは存在するような洞窩形態を考案し、従来の窩洞形成における研究と同様の方法で窩底下歯質の厚さを測定した。その結果、従来の窩洞形成法では、頬側窩底下の歯質がDでは、0.4ー0.6mmと薄く、Dでも、同部位で0.5ー0.9mmであり、露髄を示すものもあった。Eでも、近心頬側窩底下が薄く、0.6mmであり、Eでも、同部位で0.5mmと薄く、従成の窩洞形成法では、とくに、頬側壁窩底下の歯質が非常に薄く、露髄も認められ、再検討が必要であった。それに反して、新しく考案した窩洞形態では、Dにおいて、近心頬側方向への強い鳩尾形態を除けば、どの乳臼歯でも、理想的な窩底下歯質ならびに窩洞の深さを得ることが出来た。
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