アカネ科サツマイナモリ属植物チャボイナモリは鹿児島県離島部から琉球列島にかけてのわが国亜熱帯気候地域に分布する小型の草本植物である。同属の植物は他に二種、サツマイナモリとリュウキュウイナモリがあるが、チャボイナモリはカンプトテシン系アルカロイドを特異的に産生することで資源植物としての重用度が特に高い。カンプトテシンあるいはその単純な誘導体は中国の植物喜樹、クロタキカズラ科のクサミズキ、その他数種の植物に含まれていることが知られているが、チャボイナモリからはカンプトテシン、9ーメトキシカンプトテシンの他に生合成中間体のプミロシド、デオキシプミロシド、またカンプトテシン骨格のA環にグルコシルオキシ結合を持つチャボシド等、いづれも配糖体型の一連の新規カンプトテシノイド化合物が得られた。本課題研究に於いては、これら配糖体カンプトテシン類、特にチャボシドについて、構造の解明、全合成など、化学的側面からの研究を行った。 チャボシドはUV、 ^1Hーおよび ^<13>CーNMRでカンプトテシン骨格を有することが明らかになった。更にA環部にメトキシ基とβーグルコシルオキシ基が互いにオルトの位置にあることがわかり、最終的にNOEおよびCOLOCスペクトルにより9位にメトキシ、10位に糖残基を持つカンプトテシンであることが判明した。 続いてこの推定構造を確証し同時にCー20位の絶対配置を決定する目的で全合成を行った。方法としてはカンプトテシン類の汎用性のある合成法であるFriedlander反応を用いる方法によることとした。A環境はoーバニリンを出発物質として合成した。CDE環部に対応するキラルな3環性ケトンは、最近第一製薬の研究グル-プによって開発された方法で合成した。両者の縮合によってチャボシドアグリコン、チャボシドを合成、各々標品と比較し完全に一致することを確認した。
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