研究概要 |
エイズウイルスが有するRNAには種々のタンパク質がコ-ドされており感染宿主内で発現され、ウイルスの分化、成長を司る構造タンパク質、酵素が産生される。その内Polタンパク質の前駆体遺伝子の構造中にウイルスの分化、増殖等に重要な役割を演じるタンパク質をプロセッシングする酵素の存在が指摘された。本酵素は活性中心にアスパラギン酸を有するアスパルチルプロテア-ゼであり、本酵素の不活性化がエイズウイルスの増殖能力を低下させることが指摘されている。本研究は、まずこの酵素を化学合成し、それを用いて本酵素の基質特異性に詳細な検討を加えるとともに、特異的阻害剤を分子設計することにより、エイズ感染症の治療薬の開発を目的とするものである。 阻害剤の開発に当たっては、トランスオレフィン型ジペプチド・イソスタ-の一般合成法に検討を加えた。報告者らが開発した有機銅ールイス酸複合剤をホモキラルなα,βーエノエイトに作用し、1,3ー不斉転移を行ない、本基本骨格を高収率かつ高選択的に合成できることを明らかにし、数種のトランスオレフィン型イソスタ-を合成した。 また、アスパルチルプロテア-ゼの合成はFmoc型固相法で行なったが、本ペプチドのようなアミノ酸99残基から成るタンパク質の固相合成には、報告者らが開発した化学選択的固定化法による精製法が有効であることを明らかにした。 以上のごとく、本研究により従来困難とされてきた多くの官能基を有するトランス・アルケン・ジペプチド・イソスタ-の高効率かつ立体選択的キラル合成法を開発できたので、本品を合せて合成したHIVプロテア-ゼに対する阻害ペプチドの合成に今後応用することができると考えられる。
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