研究概要 |
昨年度は,ラットにおいて毒性の低い4価バナジルイオンがインスリンホルモンと同様の血糖降下作用を示すことを見出した。この成果をもとにして,さらに効力が強く経口投与が可能なバナジル錯体を見出すことを目的として,いくつかのバナジル錯体を合成しつつ,これらによる血糖降下作用をラットを用いて検討した。その結果,総合的に判断してバナジル-システインメチルエステル錯体を経口的に与えると糖尿病ラットの血糖値を正常化させることを見出した。これまで,経口投与ができる血糖降下剤は見出されていないため,この成果は,新しい医薬品を開発できる可能性を示したといえる。 以上の検討から,バナジルイオン又はその錯体が高血糖を正常化させることが明らかとなったため,次にその機構に関する研究に着手した。昨年度の研究において,生体内のバナジウムはバナジルイオンとして存在することを電子スピン共鳴法(ESR)と中性子放射化分析法(NAA)とを用いて明らかにしたので,これらの方法を用いて3,4及び5価バナジウムイオンを投与したラットにおける血中濃度を測定することにより薬動力学的解析をおこなった。その結果,血中への移行性がもっとも高いのは,5価続いて4価バナジウムイオンであり,3価バナジウムイオンはほとんど血中へ移行していないことが見出された。5価バナジウムの吸収性が高いのは,毒性と関連していることが予想された。さらにラット副睾丸の脂肪細胞に用いて,グルコ-スの取り込み及び脂肪酸の遊離について,インスリンと4価バナジルイオンの作用を比較検討したところ,4価バナジウルイオンはインスリンと同等かもしくはそれ以上にグルコ-スの取り込みや脂肪酸の遊離を抑制することを見出した。今後さらに,種々のバナジル錯体を用いて,作用メカニズムの研究を展開して行く予定である。
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