研究概要 |
1.ヒト血清アルブミン(HSA)の結晶化: タンパク質の結晶化は一般に沈澱剤を加え、溶解度を減少させて行われる。具体的には次の5つの方法がある。(1)蒸気拡散法、(2)ミクロ透析法、(3)自由界面拡散法、(4)静置バッチ法、(5)種結晶法。これらの方法のうちHSAには蒸気拡散法が最適と考え、脱脂精製したHSA(Fraction V)の結晶化を試みた。その結果板状や針状結晶の析出が再現性よく観察された。しかし0.1ー0.2mmの大きさまでしか結晶の成長がみられなかった。X線解析を行うには、0.5ー2.0mm程度の結晶が必要である。HSAの結晶化は予想以上に困難な研究(仕事)であることが判明してきた。結晶が成長しない原因を究明し、対策を講じる必要がある。対策として、Carterらの行った結晶化条件以外に、pH、温度、タンパク質濃度及び沈澱剤濃度等の実験条件を種々検討する。またHSAの純度・均一性の検討も必要と思われる。SDSーPAGEによりHSAの均一性を調べる。もし混合物(多量体等)であればゲル濾過法により単量体のみを分取し、その結晶化を試みる等である。 2.HSAの薬物結合部位のキャラクタリゼ-ション: HSAの酵素的活性を利用して薬物結合部位のキャラクタリゼ-ションを行うという、我々が従来開発した方法で詳細な検討を行い、X線構造解析の結果と対比させる。基質としてpーnitrophenyl 4ーguanidinobenzoate(NPGB)とamino acid pーnitrophenyl esters(ANPE)を用いた。HSAはNPGBに対して複数の活性部位を持っており、pKaが約6と10の触媒活性基が関与していることが分かった。ANPEの中ではNーCBZーalanine pーnitrophenyl esterに対する活性が最も強く、活性部位は一箇所(Rーsite,Tryー411の近傍)であった。Lysー199近傍(Uーsite)に結合する薬物によって立体構造が変化し、Rーsiteの活性が調節(増大)された。この調節機講は基質の立体構造(Dー,Lー体)により差異があることも分かった。
|