研究概要 |
研究目的への一歩として,本年度の目標の1つはアクラシノマイシンとDNAとの結合の反応速度の決定,ならびにその塩基配列との関連の解明にあった。そのため製作依頼購入した温度ジャンプセル(50万円)は1991年10月に一応の完成をみたが,其後の実験中に高電圧によって破損してしまったので現在修理中である。しかしこの間,目標の反応速度は予想外におそいものであるという見当がついたので,ストップドフロ-法によって目標の研究を続行した。その結果,20℃中性水溶液中では,この結合反応の二次反応速度定数は2.4×10^5M^<-1>S^<-1>と見積もられた。平衡定数1×10^6M^<-1>を用いると解離反応定数は0.24S^<-1>ということになる。更にアクラシノマイシンの水溶液中での拡散係数は4.3×10^<-10>m^2S^<-1>と見積もられるから,これからアクラシノマイシン分子とDNA分子との衝突の結合への有効率は5×10^<-5>という低い値であることが知られた。天然DNAの代りに,アデニン・ケミンのみから成る人工DNA,poly(dAーdT)・poly(dAーdT)を用いると,結合反応速度として略て同じ値が得られるが,グアニン・シトシンのみから成る人工DNA,poly(dGーdC),poly(dGーdC)を用いると結合反応速度が測定にかかって来ない。これはアクラシノマイシンがGC配列には挿入されないためであると考えられる。 他の薬剤,すなわちアドリアマイシン,ダウノマイシン,ブレオマイシン,ソラレン,ディスタマイシン,ヘキスト33258,ダ-ピ(4,6ーdiaminoー2ーphenylーindole dilydrochloride),アンキノマイシン,ヘダマイシンについてもDNAとの結合の際におこる吸収スペクトル変化ならびに蛍光スペクトル変化について靜的の実験を行ない,アクラシノマイシンについて行なったのと同様の結合速度,解離速度の測定を行なうための準備を完了した。
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