血清脂質改善薬であるクロフィブリン酸をげっ歯類に投与すると肝臓でペルオキシソームが増殖し、肝肥大が起きる。ペルオキシソームほどではないが、ミトコンドリアと小胞体も増殖する。これらの現象は生体膜成分としてのリン脂質の大量供給を必要とするが、この機序に関する情報は極めて少なかった。本研究では、この点について検討し、以下の諸点を明らかにした。(1)クロフィブリン酸は肝臓の脂肪酸不飽和化酵素を誘導してオレイン酸とアラキドン酸の生産量を増加させた。(2)この薬物の投与に伴って、肝臓のホスファチジルエタノールアミンとホスファチジルコリンが増加した。ホスファチジルコリンの増加はde novo生合成の亢進によるものであり、ホスファチジルエタノールアミンの増加は、de novo生合成の亢進によるものではなく、おもに代謝回転の抑制によるものであった。(3)生合成量の増加したオレイン酸はおもにホスファチジルコリンのパルミチルーオレイン分子種の合成に、また、アラキドン酸はおもにホスファチジルエタノールアミンのパルミチルーアラキドニルとステアリルーアラキドニル分子種の合成に振り向けられた。(4)クロフィブリン酸の投与で、肝臓のホスファチジルコリンのステアリルーアラキドニル分子種の割合が低下し、これが血液中のアラキドン酸の減少を誘起した。一方、腎臓は自前でアラキドン酸をほとんど合成しないため、血液のアラキドン酸減少の影響を受けて、ホスファチジルコリン中のアラキドン酸が減少し、プロスタグランジンE_2の生成量が低下した。以上の結果は、肝細胞は酵素誘導とリン脂質の代謝回転の抑制によって適度な柔らかさの膜リン脂質の供給を増加させるが、これは副次的に腎臓でのプロスタグランジン生成に影響することを示している。
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