申請者らの研究は、細胞内エネルギ-獲得器官であるミトコンドリアに作用することによって殺細胞効果を示す化合物のうち、がん細胞選択性を有する化合物を同定することにより、新たな抗がん剤を見い出すことを目的としている.申請者らが合成し、その作用の解析を進めている化合物のひとつであるKIHー203は、ミトコンドリアにおけるエネルギ-転換反応を非常に低濃度(25nmols/mg protein)で阻害し、その阻害機構はミトコンドリアのリン酸輸送担体の特異的阻害によるものであった.そこで、ミトコンドリアのリン酸透過担体の機能を解析する目的で、リン酸依存性の脱共役剤であるCd^<2+>の作用を検討した結果、Cd^<2+>の脱共役活性はリン酸のミトコンドリア内への取り込みを伴うものであることが判明した.さらに、このリン酸依存性の脱共役は、ヌクレオチド透過担体のコンホメ-ション変化によって調節されていることが明かになった.以上の実験結果から、ミトコンドリアに作用する抗がん剤の開発に、これらの溶質輸送担体の機能解析が重要であることを結論した.一方、がん細胞に特異性を有するかどうかを解析する目的では、がん細胞ミトコンドリアの機能を解析しなければいけない.現在までのところ、がん細胞から機能を保持したミトコンドリアを簡便かつ収率よく単離する方法は開発されていなかったので、まず、この方法を開発することにした.その結果、窒素キャビテ-ション法によって細胞を破壊、遠心分画することによって、高活性を保持したミトコンドリアの調製を簡便に行い得ることが明らかになった.このようにして調製されたがん細胞由来のミトコンドリアおよび正常細胞ミトコンドリアに対するKIHー203の作用を比較したところ、正常細胞では、HIHー203はリン酸透過担体に特異性を示したのに対し、がん細胞ではむしろ電子伝達系に特異的に阻害活性を示し、がん細胞に特異性をもたせることも可能であることが明らかにされた.
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