申請者は、細胞の“ある特定の状態"のみを認識して活性を発現する阻害剤を見いだすことができるならば、薬物の作用の特異性を高めることができるので、副作用が低く、かつ有効性の高い抗がん剤の開発に有用であると考え、エネルギ-状態に応じて膜の性質が大きく変わる細胞内小器官ミトコンドリアに注目し、本申請研究を行った.得られた成果を以下に示す. 1.正常細胞のミトコンドリアにおけるエネルギ-転換機構の解析ならびにその阻害剤の作用解析を行った. 2.がん細胞由来のミトコンドリアの単離方法の開発を行い、腹水がん細胞AH130から、高い機能を保持したミトコンドリアの単離を行うことに成功した. 3.ミトコンドリアのエネルギ-状態を測定する指標として最も有効であるとされている膜電位の測定に関し、従来の電極より、より小型で、かつ感度の高い電極の開発に成功した。この電極や酸素電極などを用いた解析の結果、エネルギ-転換を阻害しうる化合物の発見、その作用機構の解析を行った.更に本電極を用いて、シクロペンテンジオン誘導体の正常細胞、がん細胞由来ミトコンドリアに対する作用をリン酸透過系の機能を中心に調べた. 4.3の結果、がん細胞のリン酸透過担体の方がシクロペンテンジオンに対する感受性が高いことが明らかになった.更に、シクロペンテンジオン誘導体ま、がん細胞由来のミトコンドリアにおいては、膜電位形成速度を遅延させる作用があることを見いだした. 5.また、上述のがん細胞株AH130では、II型のヘキソキナ-ゼの転写が特異的に著しく亢進していることを見いだし、このこともがん細胞のエネルギ-代謝を特徴付けるよい指標になることを明らかにした.
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