眼疾患の研究は、「眼器官は独立器官」であるとの考えに立ち、眼器官以外からの影響に注意を払わないで行なわれてきたように思われる。そこで、本研究は眼疾患とくに白内障をsystemic diseaseとしてとらえ、その発症機序の解明、抗白内障薬の開発を目的として行なった。白内障モデルとしては、筆者らが開発したグルココルチコイド誘発白内障を用いた。本白内障はグルココルチコイドの多彩な作用の結果発症するもので目的にそった適切な実験モデルと考えたからである。抗白内障薬の検索では、アスコルビン酸、チオプロニン、ピロロキノリンキノンなどのラジカルスカベンジャ-に加え代謝調製物ともいえるイソクエン酸、プロピレングリコ-ルにも強い効果のあることを発見した。さらに白内障発症過程で認められた肝臓におけるヘム、ビリベルジンの蓄積機構について研究を行なった。肝ビリベルジンの蓄積はグルココルチコイドによる生合成の促進とグルタチオンの低下とで起きることが明らかとなった。グルココルチコイド投与後に認められる肝グルタチオンの低下は種々の生体反応に大きく影響することが考えられ、事実ピロロキノリンキノン投与によって肝グルタチオンの低下を防ぐことでビリベルジンの蓄積と白内障の発症を抑制することができた。肝臓のグルタチオンは生体の酸化性物質生成の制御に重要な役割を演じていると考えられ、この低下は白内障発症に一つの誘因になっている可能性が示された。以上より、白内障をsystemic diseaseとして考え、リスクファクタ-の生成を抑制することによる白内障予防薬、治療薬の開発の方向があることを示すことができた。 また、新しい補酵素であるPQQに肝機能の恒常性の維持に必須と考えられるグルタチオンの維持に寄与している可能性をを見出したことは生理学的、薬理学的にも興味深く、今後のPQQ研究の方向示すことができた。
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