研究概要 |
我々は,β-アドレナリン作動性部分活性薬の光学異性体を用い,モルモット盲腸紐のβ-アドレナリン受容体の高親和性結合部位は光学異性体を識別できるのに対し,低親和性結合部位は識別できないことを見い出した。また,組織内cyclic AMP量を指標とした時には,ウサギ毛様体の高親和性結合部位が光学異性体を識別できないことも見い出した。そこで,結合実験等を行うことにより,光学異性体と高親和性結合部位との結合特性について検討した。β-アドレナリン作動性部分活性薬としてはカルテオロール及びベフノロールを用いた。これらの薬物のS(-)体及びR(+)体は,モルモット盲腸紐及びウサギ毛様体において,高親和性結合部位のみを標識すると考えられる1nM[^3H]ベフノロールによる特異的結合を濃度依存的に阻害した。そして,モルモット盲腸紐においてはS(-)体のpki値がR(+)体のpki値より有意に大きかったが,ウサギ毛様体ではS(-)体とR(+)体のpki値の間に有意な差はなかった。このことは、モルモット盲腸紐のβ-受容体の高親和性結合部位はS(-)体及び R(+)体の立体特異性を識別できるのに対し,ウサギ毛様体のそれは識別できないことを支持している。次に,S(-)体やR(+)体といった光学異性体の構造最適化をすると,S(-)体とR(+)体では水酸基の向きが逆になることが確かめられた。そこで,これを受容体分子にフィットさせ,更に結合実験等から得られた事実を考え合わせると,モルモット盲腸紐のβ-受容体の高親和性結合部位には水酸基を認識する部位が存在するが,一方向性で,S(-)体の水酸基とのみ相互作用し,R(+)体の水酸基とは相互作用できないことが予想される。これに対し,ウサギ毛様体のβ-受容体の高親和性結合部位には水酸基を認識する部位が存在するが,S(-)体及びR(+)体の両化合物と相互作用できるように水酸基の認識部位が両方向に存在することが予想される。
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