本研究により、これまでに野外麻疹ウィルスの高感度分離法(B95a細胞系)とヒト麻疹を再現する動物実験系が確立された(前年度報告書)。今回はさらにプロトタイプの野外麻疹ウイルス(WMV)の向神経性と抗原性について検討し、以下に述べる成積を得た。 1.麻疹ウイルスの向神経性・強毒WMVの84ー01株、84ー04株の10^<5.0>TCID_<50>/mlをそれぞれカニクイサルに皮下接種し、接種後4、6、8、10、14、21日に中枢神経系から麻疹ウイルスの再分離を試みた。その結果、84ー04株ではウイルス接種後6日に大脳前頭葉、頭頂葉、後頭葉からウイルスが分離された。特に第三脳室の周辺部位からは頻繁に分離された。病理組織学的検索ではこれらのウイルス分離部位に一致して、血管周囲の細胞浸潤が観察され、同時にグリア細胞を伴う神経細胞にウイルス特異抗原が検出された。しかしながら小脳、延髄部位からのウイルス特異抗原が検出された。しかしながら小脳、延髄部位からのウイルス分離は全く陰性であった。また84ー01株接種群からのウイルス分離は陰性であった。以上の結果から麻疹ウイルスは感染後、早期に大脳に払散されること。WMVの向神経性は株により異なることが示唆された。 2.構成蛋白の大型化:1984年以前に分離されたWMV(旧型)、1984年以降に分離されたWMV(新型)の構成蛋白をSDSーPAGEで比較検討した。その結果、新型は特にHA構成蛋白の分子量に大型化傾向を示した。また、旧型ウイルスHA蛋白に対する数個のモノクロ-ナル抗体は新型ウイルスを中和しなかった。新型ウイルスはHAに部分的変異を来していることを示唆した。 3.モノクロ-ナル抗体を用いたウイルス中和試験でワクチンウイルスとWMVの分別が可能になった。
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