1.ラットから摘出した胸部大動脈を用い、その内皮依存性血管拡張反応の加齢による変化を脂質過酸化との関連から調べるとともに食餌性ビタミンEの防御効果について検討した。その結果、(A)加齢に伴って血清中の過酸化脂質量が増加するとともに内皮依存性の血管拡張反応が減弱すること、また(B)ビタミンEの欠乏により過酸化脂質の増加および血管拡張能の減弱が一層促進され、逆にビタミンEの負荷は加齢による過酸化脂質の増大を抑制するとともに血管拡張能が低下するのを防止すること、さらに(C)摘出した血管切片をin vitroで脂質過酸化誘導系に曝すと血管拡張反応が減弱すること、(D)この減弱はビタミンE負荷ラットに比べてE欠乏ラットの血管で著しいことなどが明らかになった。 2.(A)ラットの脊髄圧迫虚血および再潅流による運動機能障害、並びに(B)妊娠ラットの子宮動静脈結紮虚血および再潅流による胎仔仮死の発症過程に活性酸素や脂質過酸化が関与すること、ビタミンEは抗酸化的にこれらの障害を抑制することなどを明らかにした。 これらの知見は、老化による血管機能の低下や、虚血など活性酸素や脂質過酸化と関わりをもつことが推測される血管障害の防止ならびにその予防・治療薬の開発に大きな手掛かりを与えるものと思われる。 3.活性酸素による膜障害の基礎的研究として、鉄錯体によるモデル膜の脂質過酸化反応の誘導には(1)過酸化脂質や過酸化水素に依存するものと、(2)過酸化物に依存しない二つの機構があることを見いだし、用いた種々のキレ-タ-のうち、発癌作用のあるニトリロトリ酢酸の鉄錯体がどちらの機構による過酸化反応の誘導にも最も強い活性を示したことから、その発癌の過程に活性酸素や脂質過酸化の関与することが示唆された。
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