疼痛時にenkephalin分解酵素、およびその酵素活性を制御する因子の3者が顕著な動態を示すことを明らかにしてきた。更に、脳脊髄液中に、enkephalinを調節する分子量1000以下の内因性酵素阻害物質が疼痛疾患時に重要な鍵を握っている可能性に着目した。そこで、enkephalin分解酵素阻害物質が中枢系の脳、脊髄などに存在しているのか、サル脳膜分画のenkephalin分解酵素活性を指標として探索を開始した。その結果、ウシ脊髄50Kgより2M酢酸で抽出し、7段階カラム操作で0.6mg単離・精製することに成功した。本物質は機器分析・合成し7コのアミノ酸からなる分子量876で、構造はLeuーValーValーTyrーProーTrpーThrであることを決定した。それぞれのenkephalin分解酵素に特異的に強く阻害活性を示し、脊髄より単離したことよりSpinorphinと命名した。更に、新規Spinorphinは水、有機溶媒に可溶の特性を有していることより、脳血液関門を通過すると思われる。本研究はSpinorphinを武器として、生体で起こる痛みなどの複雑な病態をアプロ-チすることにより、enkephalinが生体で如何なる役割を果たしているか、解明する突破口がひらけると考えられる。Spinorphinを駆使して、ヒト脊髄中のenkephalin分解酵素は他の動物の臓器、例えば脳・脊髄と顕著な異なる性状を示すことを明らかにした。更に、Spinorphinがenkephalin分解酵素に対してそれぞれ特異的阻害スペクトルを示し、特にDPPに対してはKi値5X10^<ー7>、非拮抗的に強い阻害活性を示したことにより、最強の内因性enkephalin代謝酵素阻害物質である。更に、モルモット等の回腸縦走節の摘出平滑筋標本に対する電気刺激収縮を濃度依存的にSpinorphinは抑制し、その作用はナロキソンにより拮抗された。また、Spinorphinが単独投与でTail pinch法や酢酸ライジング法の薬理試験で鎮痛活性を発現したことにより、Spinorphinがオピオイド活性を有し、脊髄でSpinorphinの活性維持にはAminopeptidase Mが要として働いていることも解明した。
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