本研究は、免疫力の低下した長期入院患者における日和見感染の実態を把握し、感染経路を解明することにより、その防御対策および病棟の管理に応用することを目的としている。感染経路を解明するためには、感染の原因となる菌を特定する必要があり、そのためには、個人に由来する菌株を特定しなければならない。我々はまず染色体電気泳動核型が、従来の同定法にかわり、個人の株を特定することができる感度の高い方法であることを明らかにした。また、病院内における真菌感染の実態調査を行うことにより、感染の原因となる病原酵母の種類と出現頻度を把握した。以上の基礎的な検討をもとに、5名の白血病患者とその家族から、高頻度に分離されたCandida albicansについて、その菌株の核型を解析した。その結果、抗癌剤による治療中に、抗真菌剤を使用しているにもかかわらず、3名の患者の唾液から多数のCandida albicansが分離され、同時にこれらの患者の母親からも断続してC.albicansが分離された。3名中2名の患者とその母親から分離された菌株には、染色体の核型が非常に類似しているものがみられた。さらに、制限酵素Sma Iによる染色体の切断パタ-ンにおいても、母子間の菌株の核型は同じパタ-ンを示し、電気泳動核型の結果を支持するものであった。上述の患者と同室の患者から分離された菌株の核型は、互いに異なっており、病室の空気中からは、カンジダ酵母が全く分離されなかったことから、これらの結果は、C.albicansが母子間で移行し、唾液を介して飛沫感染している可能性を強く示唆するものと考えられた。病棟内における日和見感染を防御するためには、被感染者以外の患者、家族および医療従事者をも考慮した対策を検討する必要があり、今後さらに調査対象をひろげて解析を行う必要がある。
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