糖尿病の成因解明に関する分子生物学的研究(とくに糖輸送担体について)

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02671093
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 清野 裕 京都大学, 医学部, 助教授 (40030986)
• キーワード: 糖輸送担体(GLUT) / ラ氏島 / 遺伝子発現 / メッセンジャ-(m)RNA

研究概要

遺伝的素因を大きな要因とする糖尿病の発症機構を明らかにする目的で、ラ氏島でのインスリン分泌と末梢組織での糖代謝に重要な役割を演じている糖輸送担体(GLUT)の遺伝子発現について検討を行った。本年度は特に正常ラ氏島の糖輸送担体の発現について検討を加えた。現在までに糖輸送担体は複数個あり、一つのファミリ-形成して、ある程度組織特異的に発現している。このうちGLUT2には肝臓以外にも膵‘β細胞に存在していることが明らかにされ、グルコ-スによるインスリン分泌との関連が注目されている。さらに膵β細胞にはGLUT2以外にブドウ糖に対する親和性の高い糖輸送担体が存在する可能性も示唆されている。そこで正常Wistarラットの膵ラ氏島を単離し、現在知られているすべての糖輸送担体遺伝子の発現について検討を加えた。その結果ラ氏島にはGLUT2mRNAの著明な発現がみられ、それ以外にもGLUT1mRNAの発現が認められた。しかし、GLUT3,4,5mRNAの発現は認められなかった。さらに、ブドウ糖濃度を変化させてGLUT1、GLUT2の発現を検討すると高濃度ブドウ糖存在下ではGLUT2mRNAは著明に発現が亢進した。GLUT1mRNAも僅かではあるが発現の亢進が認められた。また蛋白レベルについても検討を加えたところ、高濃度ブドウ糖存在下にGLUT蛋白は増加した。したがって、ラ氏島の糖輸送担体としてはGLUT2のみならずGLUT1も発現して、とくにGLUT2はブドウ糖濃度の上昇によって増加することにより、ブドウ糖によるインスリン分泌と密接に関連する可能性が明らかになった。

研究成果

• [文献書誌] H.Yano,Y.Seino,et al.: "Tissue distribution and species difference of the brain type glucose transporter(GLUT3)" Biochem Biophys Res Commun. 174. 470-474 (1991)
• [文献書誌] T.Yamamoto,Y.Seino,et al.: "Liver and muscleーfat type glucose transporter gene expression in obese and diabetic rats" Biochem Biophys Res Commun. 175. 995-1002 (1991)
• [文献書誌] J.Takeda,Y.Seino,et al.: "Expression of the CREーBPl transcriptional regulator binding to the cyclic AMP response element in central nervous system,regenerating liver,and human tumors" Oncogene. 6. 1009-1014 (1991)
• [文献書誌] K.Yasuda,Y.Seino,et al.: "Expression of GLUTl and GLUT2.glucose transporter isoforms in rat islets of langerhans and their regulation by glucose" Diabetes. 41. 76-81 (1992)
• [文献書誌] N.Inagaki,Y.Seino,et al.: "cーJun represses the human insulin promoter activity that depends on multiple cAMP response elements" Proc Natl Acad Sci USA.
• [文献書誌] N.Inagaki,Y.Seino et al.: "Glucose as a regulator of both glucose transporter activity and glucose transporter mRNA in a hamster beta cell line" Diabetes.