遺伝的素因を大きな要因とする糖尿病の発症機構を明らかにする目的で、ラ氏島でのインスリン分泌と末梢組織でのインスリン依存性の糖の取り込みに重要な役割を演じている糖輸送担体(GLUT)の遺伝子発現について検討を行った。まづ、糖尿病ラットとして、高インスリン血症、肥満を伴うWistar fattyラットと低インスリン血症、やせを伴うストレプトゾシン(STZ)処置ラットを用いてGLUT2ならびにGLUT4の発現を検討した。肝におけるGLUT2遺伝子の発現は、高血糖が顕著となった14週令では対照の2.6倍(P<0.001)と有意に上昇した。さらにSTZラットにおいてもGLUT2の発現は対照群の1.6倍(P<0.1)と有意の上昇を認めた。一方、下腿筋におけるGLUT4の発現はWistar fattyラット、STZラットともそれぞれの対照と有意差を認めなかった。以上の結果より、肝におけるGLUT2遺伝子の発現は高血糖の進展とともに増大しており、これらの、モデル動物において肝からの糖放出の亢進に寄与している可能性が示唆された。一方、筋におけるGLUT4遺伝子の発現は変化せず、両ラットの末梢での糖の取り込みの低下は遺伝子発現の障害による可能性は少ないと推定される。一方、膵ラ氏島における糖輸送担体遺伝子の発現につき検討を加えたところ、GLUT1とGLUT2の発現が認められ、GLUT2は高濃度ブドウ糖の存在下に遺伝子、蛋白とも著明な発現の亢進を認めた。したがってGLUT2は膵β細胞でブドウ糖濃度を認識することにより、インスリン分泌に大きな役割を果たすと考えられ、この発現の低下が糖尿病の発症にかかわっている可能性が示唆された。
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