研究概要 |
成長ホルモンの分泌は視床下部に存在するGH放出因子(GRF)とGH放出抑制因子(ソマタトチン、SRIF)の相互作用によって調節されている。ヒトの甲状腺機能低下症における成長障害の原因としてGH分泌障害されていることが知られていたが、その成因として視床下部GRFの遺伝子発現とその分泌障害が想定されていた(Katakami et al,JCI77:1704,1986)。平成2年度は当初の計画どおり、甲状腺機能低下症ラットにおける視床下部GRF遺伝子発現を検討した。まず、抗甲状腺剤を飲料水に混ぜ、慢性投与することによってり、GH分泌低下を来たした甲状腺機能低下症ラットを作成した。同症ラットに於ては、下垂体GH含量のみならず末梢血中のGH濃度も減少していた。視床下部GRF含量は以前の報告(Katakami et al,JCI77:1704,1986)と同様に、著明に低下していた。この甲状腺機能低下症ラットに甲状腺ホルモンを補充したところ、減少していた下垂体GHのみならず視床下部GRH含量は対照群と比較して部分的に回復した。一方、GHもしくはSRIFの単独投与によっても同様に、減少していた下垂体GHならびに視床下部GRF含量は、部分的に回復した(Hidaka H et al.Endocrinology 124:A796,1989)。 Northern blotting analysisによる甲状腺機能低下症ラットの視床下部GRFmRNAに対照群と比較して増加していた。この甲状腺機能低下症ラットに甲状腺ホルモンを補充したところ、増加していた視床下部GRFmRNAは対照群と比較して部分的に回復した。一方、GHもしくはSRIFの単独投与によっても同様に、増加していた視床下部GRFmRNAは、部分的に回復した。以上の成績は、甲状腺機能低下症ラットにおける視床下部GRF含量の低下は、下垂体GH欠損により、negative feedback機構を介して、視床下部でのGRF遺伝子発現が亢進し、GRF分泌が高まり、結果として二次的に視床下部GRF含量が低下したものと推論された。
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