研究概要 |
プロインスリン(PI)の分泌動態や末梢血中のPIとインスリン(I)の比率は膵B細胞の機能を知るよい指標となりうる。本研究では,糖尿病発症因子の一つである肥満と糖尿病への移行の頻度が高いとされている糖負荷試験(GTT)境界型でインスリン低反応者におけるプロインスリン反応を検討し以下の結果を得た。 1.肥満のプロインスリン分泌に及ぼす影響 健常者,糖尿病を含む種々の程度の耐糖能異常 計147名(非肥満74名,肥満73名;肥満:Body Mass Index>25)を対象に75gGTTを行い,負荷前〜負荷後 180分まで計6回採血し,血糖,I,PIを測定した。その結果,1)正常型,境界型,糖尿病型と耐糖能の悪化に伴い空腹時PI,空腹時PI/I比が高くなる,2)肥満者では非肥満者に比べ,GTTの各区分において,空腹時PI及びGTT時の総和ΣPIが高くなる,3)空腹時PL/I比,ΣPI/ΣI比は肥満の有無による差はみられないとの成績を得た。PI/I比が膵B細胞の機能状態を反映するとすれば,肥満が膵B細胞に及ぼす影響は耐糖能異常に比べ少ないことが示された。 2.境界型でインストン低反応者におけるプロインスリン反応 非肥満境界型34名について,GTT時のインスリン指数(Insulinogenic Index;I.I.)により正常反応者(I.I.≧0.4)16名と低反応者(I.I.<0.4)18名の2群に分け,空腹時PI,ΣPI,PI/I比などを比較した。その結果,1)空腹時PI,ΣPIは両群で差がみられない,2)空腹時PI/I,ΣPI/ΣI比は低反応者の方が有意に低く,ΣPI.ΣIとI.I.とは逆相関を示す,3)低反応者の方がPIの相対的過剰分泌を示すとの成績を得た。以上の結果と境界型でインスリン低反応者の糖尿病移行頻度が高いことを考え合わせると,PI/I比が糖尿病移行への予知指標の一つになりうる可能性が示唆され,今後の経年的観察が重要と思われる。
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