研究概要 |
我々は平成2年度の科研費補助金により,1988年に世界で初めて提唱した「GRF抑制因子」ソマトスタチン(SRIF)説を,更に発展させる一連の研究成果を得た。この間諸家により,間接的ではあるが我々の仮説を支持する成績も国内外で発表されている。今回の科研費により,我々はまず,SRIFの選択的枯渇剤であるCysteamineがin vitro,in vivoの両条件下でGRFの分泌を強力に促進することを見出した。このうち,視床下部SRIFを組織特異的に減少させ,そのGRF放出促進作用を直接証明したin vitroの成績は,我々の仮説の妥当性を強く支持する(投稿中)。また,このCysteamineのGRF放出促進作用が,下垂体門脈血管の完成時期に一致して出現することを米国内分泌学会で報告し,高い評価を得ている。一方,in vioのより生理的な条件下でも,Cysteamineが視床下部GRFを放出させることを,抗ラットGRF抗体の受動免疫法を用いて証明し得た(投稿予定)。更に,Cysteamineよりも特異性が高いと考えられる抗SRIF抗体を用いたin vitroのSRI下枯渇実験(Synaptosomes)でも,GRFの放出増強効果を確認しており,現在抗SRIF抗体の濃度依存的効果とその効果の時間依存性について検討を加えている。ところで,我々は,視床下部前方切断術によりSRIFを慢性的に枯渇させると,急性効果とは反対にGRFの放出のみならずその含量も激減することも発見した。この結果は,SRIFがGRFの分泌と合成をともに調節することを示唆する所見であり,この解明は今後の重要な研究課題となろう。以上の我々の実験成績は,本来成長ホルモン分泌抑制因子として発見されたSRIFが,視床下部内部ではGRF抑制因子として作用することを更に支持する所見である。我々の仮説は,成長ホルモン分泌調節において対立するSRIFとGRF両因子の分泌と作用の中枢性統合機構を合理的に説明するものである。
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