研究概要 |
慢性骨髄性白血病(CML)は数年に亘る慢性期を経て不可避的に急性転化に至るが、現在までの所、その機序は明らかにされておらず、また、急転を予防する有効な治療法は確立されていない。急転移行に関する分子遺伝学的解析では以下の点が明らかになった。サザン法、RT-PCR法によるbcr遺伝子の切断部位とbcr/abl結合様式の検討では、それらと急転との間に明らかな相関はみられなかった。しかし、急転細胞ではbcr/abl mRNAの増幅が確認された。trans-forming活性を有する発癌遺伝子の関与について、DNA transfection並びにPCR法により検討した。ras遺伝子の点突然変異による活性化が検出される急転症例が稀にみられた。一方、癌抑制遺伝子P53の構造異常や発現異常が骨髄球性急転症例において高頻度に検出された。以上の研究を通して、急転の一つの機序として、慢性期の腫瘍増殖の過程でP210bcr/abl発現の強い造血幹細胞クローンが漸次選択的に増加することに加えて、P53癌抑制遺伝子などの機能喪失(G1→S期導入監視機構の破綻)が促進的に作用する可能性が示唆された。 以上の研究成果より,BCR/ABL癌蛋白の特異的制御が新しい治療戦略として可能か否かについて検討を進めた。bcr/ablmRNAに相補的なantisense oligodeoxynucleotidesによるBCR/ABL癌蛋白の制御と抗腫瘍活性は不十分であり、化学修飾やdeliverysystemの開発が必要と考えられた。一方、BCR/ABL癌蛋白を標的として、tyrosine kinase阻害剤herbimycinAはPh^1陽性白血病細胞に特異性の高い抗腫瘍活性を示すことが、BCR/ABL遺伝子導入の応用系を含めて証明することが出来た。以上の成果は、欧米誌に論文や総説論文として発表した。
|