不確実性を含む社会現象や自然現象の多くが持ち行列システムで記述できる。このため、待ち行列の理論は活発に研究され、応用上・理論上重要な結果が数多く得られている。しかし、これらの結果の多くは無限の時間が経過したとして得られたもので、現実のシステムに適用する際には、あくまでも近似として扱われるべきものである。多くの場合この近似は受け入れられるものであるが、通信・情報などの複雑なシステムの設計・評価には精密な議論が要求され、待ち行列システムにおける状態推移確率の過渡解への要求は情報技術の発展に伴いますます増大してきている。本研究はこういった社会的要請に裏打ちされたものであり、本研究課題では特に単一窓口マルコフ型待ち行列システムの状態推移確率の過渡解を扱った。数学的にはこの状態推移確率過渡解は、無限個の修正ベッセル関数の重み付き和で与えられることが知られているが、この解を数値的に求めることは不可能であり、従来はいかに良い近似式を求めるかに研究の主眼が置かれてきた。また、この状態推移確率の持つ性質も未だによく知られていないのが現状である。 当該年度の研究は、どちらかというと後者の問題に力をいれて続けた。実績として、この問題では世界の第1人者であるATTの主任研究員whitt博士と共同研究を行ない、その結果として、状態推移確率のもつ多くの性質を導き、Abate氏(前ATT主任研究員)を含む3人による共同論文を発表した。また、数値計算法の開発に関しては、ベッセル関数をラゲ-ル直交関数系により展開して計算しようという研究代表者のアイデアを実行するために、少々回り道とは思ったが、この方法を実際に調うためのサ-ベ-論文を書いた(米国、Rochester大学Sumita準教授と共著)。
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