研究概要 |
本研究では学習と教示の関係をアルゴリズム論的に明らかにすることを目的とし,次の点について研究を行い成果を得た. 1.まず新たに「教示可能性」という概念を定式化に成功し,従来のPAC学習可能性との関係を明らかにした.この研究により,学習もしくは教示のための計算量を考慮に入れない場合はこの2つの概念に差異がないが,多項式時間という制約をもうけると2つの概念は全く異なったものであることを示した.そして,教示し易いが学習しにくい概念クラスなどを具体的に示すことができた. 2.また容易に学習するために小さなサイズの教材を作成することが困難であることも計算量の理論の立場から示すことができた. 3.類推による教示と学習の研究では,計算量を考えた研究がほとんど行われていない状況であったので,定数記号と変数記号のみを項とし関数記号を含まないような論理プログラムを対象として計算量の解析を行った.ここでは,2つの論理プログラムS_1,S_2および原始論理式p(a)が与えられるとき,S_1とS_2の間で類推を行うことによりp(a)が導かれるかどうかを判定する問題がNP困難であることを示した.ここで,S_2が単に事実のみからなる論理プログラムであってもやはりNP困難であることもわかった.こうして類推による学習と教示では最も基本的な部分の計算量がとても大きくこの部分を合理的に解決することが今後の課題として残されている. 4.以上のような学習と教示の研究を現実的に検討するため,Post Scriptを用いて,手書き文字からその筆跡を学習するフォント学習システムの開発を検討中であるが,開発環境の不備のためこの方向では多少研究の遅れがある. 5.並列化という観点からの研究でもいくつかの成果を得ることができた.概念クラスの小さな集合被覆を求める問題は上に述べた教示可能性と深く関係していることを示した.ここではまず次数限定極大部分グラフを効率よく求める並列アルゴリズムを極大独立点集合を用いるという手法で得た.そしてこの並列アルゴリズムの着想をさらに一般化して発展させ,極小な集合被覆を求める並列アルゴリズムを得ることができた.
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