研究概要 |
微量注入法により作製されたトランスジェニックマウスの5〜15%は劣性の挿入突然変異を持つと言われている。本研究の目的は変異遺伝子を効率的に回収する手段を検討することにある。 1.トランスジェニックマウスの染色体上に組み込まれたプラスミドDNAは通常高度にメチル化されているため、従来の大腸菌株で調製したコンピ-テントセルへ直接回収することは困難であったが、Hanahan博士らが開発したメチル化依存性制限系の複数の遺伝子に変異を持つ大腸菌株(DH5α系)への比較的高率に回収することが可能になった。そこで我々は博士より菌株の分与を受け、各臓器よりDNAを分離し回収率を比較したところ、総じてDH5αMCR株(mcrA,mcrB,mcrC,mrrに変異)の方がDH5αm4株(mcrA,mcrBに変異)よりも回収率が高かった。しかし、精巣由来DNAでは逆にm4株の方がMCR株より回収率が高いか同じであった。精巣由来DNAがなぜ他の臓器由来DNAと異なった挙動を示すのか現在検討中であるが、減数分裂後のDNAが精子頭部ヘパッケ-ジングされる現象あるいは受精後の雌雄遺伝子の発現制御などとの関連が示唆される。 2.マウス受精卵に導入されたDNA分子は通常head to tailにタンデムに結合し染色体上へはランダムに組み込まれるが、その機序は末だ明かでない。我々は注入DNA断片同士の組換え機序を解析するため、互いにオ-バ-ラップ領域を持つ複数のDNA断片を受精卵前核に微量注入した。その結果、それぞれのDNA断片はオ-バ-ラップ領域で相同組換えにより結合し、その後染色体上に挿入されることが解った。この相同組換えがどの程度正確に行われているかは不明であるが、少なくともオ-バ-ラップ領域中の制限酵素切断部位は無傷であり、相同組換えの正確度は高いと推察される。
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