実際の調味操作では調味料が食品の全表面から食品内部へと三次元的に拡散するが、これまでに報告されている食品中の調味料の拡散係数は、拡散が一方向のみに生じる一次元の拡散におけるものである。三次元拡散における研究は成されておらず、実測値に基づいた拡散係数については言及されていない。そこで、実際の調味操作に則した系として、三次元拡散を取り上げ、三次元拡散における拡散係数の特徴を明らかにすることを試みた。 三次元拡散の系として、2%寒天ゲルを、一辺の長さ(2L)が1cm〜10cmの立方体に成形し、0.1M(C_1)食塩水溶液に0〜75時間(t)浸漬した後、立方体中の食塩平均濃度(C^^ー(t))を経時的に測定した。直交座標系における拡散方程式の解に実測値C^^ー(t)/C_1(=Cr)とt/L^2を代入し、実測値に合う計算値を与える拡散係数を算出した結果、D=0.97×10^<ー5>cm^2/sを得た。さらに、拡散過程終盤における実測値には計算値との間にズレが見られたので、Crとt/L^2の関係を局所的に解析し、拡散係数を見かけの拡散係数として算出した。その結果、見かけの拡散係数はCr=0.85以降で急激に減少することが認められた。一方、半無限固体に成形した2%寒天ゲル中の食塩の一次元拡散における拡散係数はD=1.12×10^<ー5>cm^2/sであった。 寒天ゲルー食塩の系で見られた三次元拡散における特徴は、でんぷん性のゲル(馬鈴薯でんぷん、コ-ンスタ-チゲル)およびタンパク質性のゲル(卵アルブミンおよび分離大豆タンパク質)中の食塩の拡散においても、またショ糖の拡散においても同様に観察されることを確認した。 本研究で得られた三次元拡散における二つの特徴は、‘味付けには時間がかかる'、‘翌日まで置いておいたら味がしみておいしくなった'などとこれまで言われてきた調理上の認識を裏づけるデ-タを示すものである。
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