筋肉成分の特徴やその死後変化を詳細に検討し、養殖魚の風味やテクスチャ-を支配している要因を、天然魚との比較において、解明することが本研究の目的である。平成3年度はブリを対象にして、養殖ー天然別に、筋肉の脂溶性成分の含量および貯蔵中(0℃)の変化を検討した。結果は次のように要約できる。 1.筋肉脂質のクラス組成(総脂質中の含量比)は養殖魚と天然魚とで異なり、中性脂肪は明らかに養殖魚に多かったが、遊離脂肪酸は養殖ー天然間で差がなく、貯蔵中の変化速度も両者間で差がなかった。 2.筋肉中のトコフェロ-ルの大部分はdー型であり、その含量は個体によってかなり異なるが、総脂質中の濃度で表すと、養殖魚より天然魚に多かった。このdートコフェロ-ルは貯蔵中に減少したが、その減少速度は、養殖魚に比べて、天然魚において速やかな傾向が認められた。 3.筋肉のTBA値は、特に養殖魚の場合は個体によって異なるが、天然魚より養殖魚でTBA値が大きく、貯蔵中のTBA値の増加速度は養殖魚で大きい傾向が認められた。 4.筋肉脂質中のdートコフェロ-ル含量と筋肉のTBA値との間には負の相関関係(相関係数ー0.86)が認められた。 5.以上の実験結果から、天然魚筋肉にはトコフェロ-ルが多く、このトコフェロ-ルが減少してあるレベルに達するまでの間、貯蔵中の過酸化脂質の生成、ひいては風味の低下が抑制されると考えられる。また、このトコフェロ-ル含量の養殖ー天然間の差は餌の質(脂質の酸化程度)の差を反映するものと推論できる。
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