筋肉成分の特徴やその死後変化を詳細に検討し、養殖魚の風味やテクスチャ-を支配している要因を、天然魚との比較において、解明することが本研究の目的である。平成2〜3年度にわたって、ブリを対象にして、養殖ー天然別に、筋肉成分を比較分析すると共に、それらの貯蔵中の変化を検討した。結果は次のように要約できる。 1.筋肉貯蔵中のK値の増加速度は、部位による差異を示しながらも、5℃貯蔵の場合、天然ブリで3.1〜4.6%/日、養殖ブリで5.5〜6.1%/日、と天然魚より養殖魚で大であった。また、全試料を通じて、脂質含量の多い筋肉ほど貯蔵中のK値の増加速度は大きい傾向がうかがわれた。 2.筋肉中のトコフェロ-ルの大部分はdー型であり、その含量は個体によってかなり異なるが、総脂質中の濃度で表すと、養殖魚より天然魚に多かった。このdートコフェロ-ルは貯蔵中に減少したが、その減少速度は、養殖魚に比べて、天然魚において速やかな傾向が認められた。 3.筋肉のTBA値は、特に養殖魚の場合は個体によって異なるが、天然魚より養殖魚でTBA値が大きく、貯蔵中のTBA値の増加速度は養殖魚で大きい傾向が認められた。 4.筋肉脂質中のdートコフェロ-ル含量と筋肉のTBA値との間には負の相関関係(相関係数ー0.86)が認められ、両者が餌の質(脂質の酸化程度)の差に依存していることが推論された。 5.以上の実験結果から、トコフェロ-ルが多く脂質の少ない天然ブリでは過酸化脂質が少なく、貯臓中のK値の増加速度も小さいが、脂質が多い養殖ブリではK値増加や脂質の酸化が進み易い傾向が明らかになった。このことは天然ブリより養殖ブリの風味が劣化し易いとの流通現場での感覚的判断に科学的根拠を与えるものであり、より好ましい養殖魚を生産するための餌や飼育条件の改善の方向を示唆するものである。
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