本研究は酵母の凍結障害機構を解明することを目的として行ったもので、本年度は冷凍耐性酵母および冷凍感受性酵母に対する凍結貯蔵温度ならびに貯蔵期間、エタノ-ル、ショ糖および小麦粉に含まれる抗酵母タンパク質ピュ-ロチオニン(PTN)の影響などを検討した。 1.酵母の菌体懸濁液をー20〜ー80℃で1週間凍結貯蔵したのち融解し、凍結貯蔵温度が酵母の生存率に及ぼす影響を調べた。その結果、冷凍耐性菌および冷凍感受性菌ともにー80℃で凍結貯蔵した時が最も生存率が高く、ー30℃で凍結した場合はいずれもその生存率は最低となった。また、ー80℃で凍結したのちー20℃で貯蔵した場合の生存率を比較した結果、感受性菌では1週間ですでに10%以下に生存率が減少したが、耐性菌では20%以上の生存率が維持されており、とくにー80℃で貯蔵した場合、耐性菌はより高い生存率を示した。 2.酵母の凍結障害に及ぼすエタノ-ルおよびショ糖の影響を検討した結果、0.5〜1%の比較的低濃度のエタノ-ルの存在下で酵母の凍結障害が最大となること、ショ糖が共存するとエタノ-ル濃度の増加とともに障害の程度が増加することを見いだした。また、エタノ-ルの影響は、耐性菌よりも感受性菌において強く発現する傾向が認められた。 3.小麦粉に含まれる抗酵母タンパク質PTNの存在下で酵母を凍結融解した場合、Saccharomyces cerevisiaeに属する冷凍感受性菌の発酵能はPTNの濃度の増加とともに減少し、反対に細胞内から漏洩する紫外部吸収物質量は増大した。これに対し、Torulaspora delbrueckiiに属する冷凍耐性菌の発酵能はPTNによってあまり影響を受けず、細胞内物質の漏洩量も比較的少ないことが明らかとなった。この結果から、酵母の凍結に対する感受性とPTNに対する感受性との間になんらかの相関関係があることが示唆された。
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