近赤外(NIR)分光法による食品成分の最大の特徴は、迅速かつ簡便で、しかも非破壊で分析が行えることである。従来の大多数の化学分析法は、破壊分析である。食品を破壊してしまうと、各食品に特有の存在状態で含有される各成分を本来の食品中の存在状態を反想して分析することができなくなる。つまり、非破壊分析は、食品の持つ本来の状態を損なうこと無しに、食品の品質評価を実現することができる。 本研究では、NIR法による食品中のタンパク質含量の測定方法を確立することを目的とし、以下に述べる方法でスペクトル解析を行った。牛血清アルブミンをモデルタンパク質として用い、NIR二次微分吸収スペクトルを解析したところ、その5つの特性吸収ピ-クのうち、2170nmの吸収が最も感度が高く、UV法によるタンパク質測定値との間に、高い相関を有した。そこで、モデル溶液系を用いて、各種共存成分並びに測定条件に対する2170nmの安定性について、それらのスペクトルおよび回帰分析の手法を用いて調べた結果、塩類、糖類、アミノ酸および変性剤が共存しても、あるいはpHや温度が変化してもこの波長の吸収位置および吸収強度は、ほとんど影響を受けなかった。しかし、ペプチド類が共存すると測定条件によってはタンパク質の定量に誤差を生じさせた。また、2170nmの吸収波長の帰属を検討した結果、この吸収をペプチド結合に由来することを明らかにした。以上の結果から、NIR分光法で食品中のタンパク質含量を測定するには、2170nmの吸収波長を選択することが必須であると結論した。次に、タンパク質測定に対して影響を及ぼすと考えられる油脂が共存した系について、牛血清アルブミンと大豆油を用いて詳細なデ-タ解析を行った。その結果、共存する油脂の含量が高くなるに従い、2170nmの吸双強度を用いた検量式の回帰係数(スロ-プ値)は徐々に減少した。そこでタンパク質測定に対して、この波長における吸収を油脂に由来する2306nmの吸収を用いて補正した式を適用すると、タンパク質ー油脂混合系においても、精度の高いタンパク質含量の測定が可能であることを明らかにした。そこでこの補正式を、市販の牛乳中のタンパク質含量の測定に適用したところ、極めて精度および再現性の高い分析結果が得られた。この補正式を用いると、化学分析値との間であらかじめ検量式を作成することなしに牛乳のような食品中のタンパク質含量の測定を実現する可能性を示唆した。
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