今年度に得られた最大の成果は単繊維ないし数本の繊維から構成される繊維束試料のぬれの過渡現象を測定し得る方法を確立したことである。平成2年7月末に、「静電容量式水分移動測定装置」を購入したが、本装置は元来、移動水分量の多い布などの試料用に開発された装置であるため、単繊維ないしは繊維束試料に適用するためには、測定セルや検出装置の大幅な改造が必要であった。検出感度を数オ-ダ-高めるために測定回路の設計変更を行うとともに、増幅器の部品を多数交換した。すなわち、購入した装置ではセンサ-コンデンサ-を流れる高周波電流を直流電圧に変換する方式であったが、この方式の最大の欠点はセンサ-電極の片側を接地できないためS/N比をある程度以上には向上させ得ない点にあった。そこで本研究では、モノステ-プルバイブレ-タ-の発振周波数を決めるコンデンサ-をセンサ-電極(コンデンサ-)と並列に接続して発振周波数の変化を読み取る方式への転換を図った。さらに、測定用セルの改造は、試料形状の変更(布試料→繊維または繊維束試料)への対応のみらなず検出感度の大幅改良をも企図したため、「改造」よりはむしろ「試作」と言うべきものとなった。現在、改良された装置を用いて、種々の単繊維ないし繊維束試料についての測定がケラチン繊維での測定に先立って進行中である。予備的な結果を二、三紹介すると、(1)レ-ヨンに代表される親水性の繊維とポリエステル、ナイロンなどの疎水性繊維とでは明らかに異なる吸水挙動が認められる。(2)親水性の繊維と言えども繊維本数がある数を越えないと垂直方向での水分移動は観察されない。(3)布から取り出された経糸と緯糸の吸水挙動の差異は予想以上に大きいことなどがわかった。なお、これらの成果の論文発表は準備段階にあるが、平成3年6月の繊維学会年次大会ではその一部を発表する。
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