平成2年度に、「静電容量式水分移動量測定装置」を購入したが、本装置は元来、移動水分量の多い布などの試料用に開発された装置であるため、単繊維ないしは繊維束試料に適用するために、測定セルや検出装置の大幅な改造を行った。さらに、単繊維ないし繊維束試料測定用セルを試作した。これは、試料形状の変更(布試料→繊維または繊維束試料)への対応のみならず検出感度の大幅改良をも企図した。初年度の装置でも一応測定は可能となったが、平成3年度にはさらに測定の再現性を高めることや従来の垂直方向だけでなく水平方向でも測定を可能とするために、測定セルの電極板の溝を種々のサイズ(幅、深さ)に変化させた。また、電極板の片端をくさび状に切断して、同一セルを用いて繊維試料を垂直及び水平状態で測定可能なように作製した。この装置を用いて親水性の繊維(レ-ヨンなど)及びナイロンなどの疎水性繊維について再測定を行うと共にケラチン繊維(毛髪)試料について測定を行い以下の結果を得た。(1)試料繊維本数や繊維束の大きさに応じてセルの溝を調節すると再現性のある結果が得られる。(2)レ-ヨンに代表される親水性の繊維とポリエステル、ナイロンなどの疎水性繊維とでは明らかに異なる吸水挙動が認められる。(3)親水性の繊維と言えども繊維本数がある数を越えないと垂直方向、水平方向共に、水分移動は観察されない。毛髪での測定では、(4)洗浄された健常毛髪では10本以上の繊維束でも水分移動は認められないが、(5)繊維表面のDCCAによる塩素化処理を行うとその処理の程度に応じた吸水挙動の変化が観察された。(6)繊維表面を物理的に摩耗させても同様の現象が観察された。(7)以上の結果はケラチン繊維のスキンーコア-構造に基づいており、疎水性の表面構造が破壊されて親水性の本体が露出されるためと考察した。また、(8)この結果は毛髪の診断にも応用可能であることが判った。なお本成果の一部は、平成3年6月の繊維学会年次大会で発表した。
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