動物細胞表面にアンテナ様にその糖鎖を露出し、細胞の外界との情報のやりとりを担う分子として注目されている糖脂質糖鎖は、細胞の発生、分化、癌化によって大きく変動する。このような細胞活動の各局面における糖脂質糖鎖の役割を解析するためには、糖鎖発現を調節する因子を解析することが重要である。本研究は、生理活性を持つガングリオシドの生合成を担うシアル酸転移酵素の完全精製およびその生理学的意義の解析を目的とした。 [1]シアル酸転移酵素の完全精製:効率のよい精製法の開発を試みた。ゴルジ装置調製が標準化されているラット肝臓を材料として、シアル酸転移酵素をタンパク質レベルで検出し、分子量やサブユニット構造を解析するために、イオン性界面活性剤を検索したところ、GD3合成酵素の活性はポリオキシエチレンラウリルエ-テル硫酸ナトリウム/ラウリルジメッチルアミンオキシド(7:3)により可溶化されることを見いだした。 [2]シアル酸転移酵素の分子検出のためのアフィニティ-標識法の開発:GM3合成酵素(α2→3シアル酸転移酵素)の分子検索をするために基質であるラクトシルセラミドの光反応性誘導体を合成し、その性質をしらべた。アリ-ルジアリジン誘導体は、光照射によりニトレンより高反応性のカルベンを発生し、ラベルにより生じる結合も安定しており有用とかんがえられる。今回、光反応性ラクトシルセラミドジアジリン誘導体の合成とGM3合成酵素への応用を試みた。ウシ脳灰白質膜画分を酵素源としてGM3合成酵素への親和性をラクトシルセラミドとの競合、およびLac部分へのシアル酸の取り込みを指標に検討し、ほぼ同定度の良好な基質になることが判った。アビジンービオチン系を検出系に利用できる本化合物は目的シアル酸転移酵素の分子検索に有用なリガンドと考えられた。 [3]アフリカツメガエル卵のガングリオシドの構造解析とその合成酵素系の解析:ガングリオシド分子種の構造解析および生合成酵素について解析した。常法によりアフリカツメガエル卵より酸性糖脂質画分を得、ガングリオシドマッピングにより、スルファチドを最大成分とする9種の分子種が検出された。質量分析、メチル化分析、特異的抗体を用いたTLC免疫染色、グリコシダ-ゼ消化の結果からガングリオシドの最大成分はGalNAcβ1→4[NeuAcα2→3]Galβ1→3GalNAcβ1→4Galβ1→4Glcβ1→1Cerであることを明らかにした。アフリカツメガエル卵ではラクトシルセラミドからガングリオテトラオ-スを経由して合成されるユニ-クな経路が存在することを明らかにした。これらの結果は糖鎖発現系をアフリカツメガエル卵で確立するうえで重要な知見である。
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