研究概要 |
1.マウス神経芽細胞腫の培養細胞株(NSー20Y,Neuro2a,N1Eー115)について,各細胞の糖脂質組成の分析をおこない,糖脂質合成酵素阻害剤threoーPDMP(1ーphenylー2ーdecanoylaminoー3ーmorpholinoー1ーpropanol)の添加培養による糖脂質生合成の阻害と,細胞膜糖脂質の変化を検討した. (1)NSー20YおよびNeuro2a細胞ではGM3,GM2,GM1,GD1aが,またN1Eー115細胞ではGM3,GM2が主要なガングリオシドであった. (2)主要な中性糖脂質としては,各細胞ともGlcCer,LacCer,Gb4Cerが存在した. (3)代謝標識による生合成の解析の結果,PDMPの添加により各ガングリオシドの生合成は著しく阻害され,細胞膜糖脂質の量的変化を生じさせ得ることがわかった.中性糖脂質の生合成も,PDMPの存在により各細胞で著しく阻害された.一方,細胞膜糖脂質に質的変化は観察されなかった. 2.神経芽細胞の増殖はPDMPによって濃度依存に抑制されたが,低濃度ではその効果は細胞傷害的ではなく,可逆的であり,培養細胞系で細胞膜糖脂質のレベルを人為的に制御し得る可能性が示された. 3.(1)神経芽細胞をserumーfree medium中で培養したときに起こる神経突起の伸展が,PDMPの存在によって強く抑制される現象がみいだされ,糖脂質生合成が神経突起の伸展に必要である可能性が示された. (2)PDMPによる神経突起の伸展の抑制は可逆的であり,またPDMPはすでに伸展した神経突起に対しても,その退縮をひき起こす効果を示すことが明らかとなり,その作用機序が興味ある問題点となった. (3)GM1ガングリオシドの添加培養によって,PDMPによる神経突起の伸展の抑制は部分的に解消された.
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