研究概要 |
大腸菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(Asp AT)はその活性部位にピリドキサ-ルリン酸(PLP)を補酵素として持つ,PLP依存型酵素の一つであり,アスパラギン酸のアミノ基をPLPに渡して,オキザロ酢酸を生成する酵素である。活性部位のPLPの回りにあって,触媒反応において重要な役割をになっているTyr70,Tyr225およびArg292を他のアミノ酸で置換した変異型酵素Y70F,Y70W,Y225FおよびR292VのX線結晶構造解析を行なった。デ-タは4軸型自動回折計または高エネルギ-物理研究所放射光を用いて収集した。構造の精密化は分子動力学,分子力学,X線デ-タの3つを併用して行なった。Y70Fは野生型にくらべ15%の活性を持っている。Y70Fの全体構造は野生型と同じであり,F70のベンゼン環は野生型のY70のベンゼン環と同じ位置にあった。モデルフィッテングでC_5基質はベンゼン環と相互作用しており,C_5基質を認識している可能性が示された。Y70Wは基質アナログを加えて結晶化した。構造解析の結果,基質アナログは活性部位にあるが,野生型と違ってPLPとシッフ塩基を作っていなかった。これはW70がかさ高く,立体的な障害によるものと考えられる。R292Vは基質であるアスパラギン酸に対する活性はよくなるが芳香族アミノ酸に対する活性が増大する。X線解析の結果全体構造は野生型と同じであり,おどろきべきことに292番の電荷の消失にもかかわらずV292の側鎖は野生型のR292の側鎖と同じ位置にあった。Y225Fの活性は野生型の0.3%である。結晶解析の結果は活性の大きな低下にもかかわらず構造変化がほとんどなかった。結局野生型のY225のOHとPLPの水素結合が無くなることによるPLPのピリジン環とシッフ塩基の共役系の電子状態の変化が原因と考えられる。
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