癌関連糖鎖抗原の性質,発現機構および生物学的意義について

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02680144
• 研究機関: 京都産業大学
• 研究代表者: 中田 博 京都産業大学, 工学部・生物工学, 助教授 (90113141)
• キーワード: Tn抗原 / ロイコシアリン / 癌関連糖鎖抗原

研究概要

T細胞系の培養細胞株JurkatのロイコシアリンにTn抗原が発現されていることを見い出し,その性質を検討した。Jurkat細胞に存在するロイコシアリンの糖鎖はGalNAc残基のみからなるOーグリカンが80%以上を占め、T_n抗原が発現されていることが予想された。先ず、抗Tn抗体であるMLS128をJurkat細胞に加えると細胞が凝集することを確認した。さらに、 ^3Hーグルコサミンで標識したJurkat細胞のlgsateよりMLS128による免疫沈降物を調製し、SDSーPAGE後、フルオログラフィ-で同定した。約120kダルトンのほぼ単一なバンドが観察された。ロイコシアリンは、当初福田らによって、WGAに結合する主要糖タンパク質として単離されているので、WGA結合タンパク質と比較したところ、その分子サイズは全く一致した。ロイコシアリンは他の血球系細胞にも発現されているが、K562細胞の場合もその糖鎖としてGalNAc残基のみからなるOーグリカンを10%程度持っていることが知られている。K562細胞についても同様の実験を試みたが、K562細胞にはTn抗原は発現されていなかった。この結果は、Tn抗原の構造がGalNAcーThr(Ser)のような単純な構造ではないことを示している。次に、Jurkat細胞を ^<35>Sーメチオニンで15分間パルスラベルし、種々の時間チェイスし、各細胞のlysateより免疫沈降物を調製した。さらにその上清にGalNAcーSer(Thr)と反応するサルビアレクチンを加え、反応物を得た。それぞれをSDSーPAGEし、フルオログラフィ-としたところ、サルビアレクチンと反応するロイコシアリンはチェイス10分程度で固定可能であったのに対し、MLS128の免疫沈降物はチェイス30分以後に観察された。この結果も、Tn抗原がGalNAcーSer(Thr)の単純な構造ではないことを示している。

研究成果

• [文献書誌] Numata Yoshito: "A monoclonal antibody directed to Tn antigen" Biochem.Biophys.Res.Commun.170. 981-985 (1990)
• [文献書誌] Kitagawa Hiroshi: "Occurrence of tetra-and pentasaccharides with the sialyl-Le^a structure in human milk" J.Biol.Chem.265. 4859-4862 (1990)
• [文献書誌] Kitagawa Hiroshi: "Novol oligasaccharides with the sialyl-Le^a structure in human milk" Biochemistry. 30. 2869-2876 (1991)
• [文献書誌] Nakada Hiroshi: "Expression of the Tn antigen on T-lymphoid cell line Jurkat" Biochem.Biophys.Res.Commun.179. 762-767 (1991)
• [文献書誌] Kitagawa Hiroshi: "Characterization of mucin-type oligosacc harides with the sialyl Le^a structure from human colorectal adenocarcinoma cells" Biochem.Biophys.Res.Commun.178. 1429-1436 (1991)
• [文献書誌] Nakada Hiroshi: "Elucidation of an essential strcture recognized by an anti-GalNAcα-Ser(Thr)monoclonal antibody (HLS128)" J.Biol.Chem.266. 12402-12405 (1991)
• [文献書誌] 中田 博: "新生化学実験講座3糖タンパク質(下)" 東京化学同人, (1989)
• [文献書誌] 中田 博: "蛋白核酸酵系Tn抗原" 共立出版,