PC12細胞が神経成長因子(NGF)に応答して神経細胞に分化する際にras遺伝子産物p21が必須な役割を果たすことが示されている。したがってPC12細胞のNGF非応答性変異株の中にはrasシグナル伝達に関与する遺伝子の異常が含まれているはずである。そこで、その産物が恒常的に活性化されているras遺伝子を保持しその発現を誘導し得る系を利用してras遺伝子発現に応答しない変異株を単離した。単離した株の多くはNGFに対する応答性も顕著に低下していることが示された。そこでこの形質を復帰させる遺伝子の単離を試みている。 神経分化の際にras遺伝子産物が必須な役割を果たすことからNGF刺激に際してras遺伝子産物p21の活性化が起こることが期待される。p21はGTP結合時に活性化されGTPの加水分解にともない不活化される。そこで、PC12細胞にNGFを添加しp21に結合しているヌクレオチドを分析した。その結果NGF添加後急激にGTP結合量が増大する結果を得た。したがって、ras遺伝子産物p21はNGFレセプタ-からのシグナルにより活性化され、下流の因子にシグナルを中継するものと考えられる。PC12細胞の神経細胞分化を引き起こす因子として知られる、IL6およびcAMPはp21の活性化をもたらないことから、別個のシグナル伝達系が存在することが示された。 p21のGTP加水分解活性はその活性調節に重要な役割を果たす。そこでp21のGTPア-ゼ活性促進因子であるNF1遺伝子産物を分子量235kDaの不溶性タンパク質として同定した。NF1活性の組織特異性を調べたところ、脳においてその発現が高いことが示された。またすでに知られているGAPおよびNF1とは分子量、抗原性が全く異なる新たなGTPア-ゼ活性促進因子を同定しその精製を行った。
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