細胞同士の情報のやりとりは、細胞内の信号伝達・増幅システムによって成り立ち、最終的には固有の細胞機能が発揮される。細胞内カルシウム信号系はこのような細胞応答を決定づける普遍的な生体反応系であると考えられている。本研究の目的は、カルシウム信号系の中軸をなしているカルシウム受容蛋白質に焦点をあて、その機能調節の仕組みを明らかにすることにある。このような目的のもとに、第1にカルシウム情報系を構成する蛋白質のうちカルシウム依存性リン脂質結合蛋白質(アネキシンファミリ-蛋白質)とEFハンド蛋白質に焦点をしぼり、2つの群に属する蛋白質の構造と機能、生理的意義について追求した。結果としては、平滑筋、水晶体、脾臓からアネキシンファミリ-蛋白質の精製を行い、蛋白質化学的性状の解析、アミノ酸配列の決定、生物活性の検討などを行った。また各々のアネキシンファミリ-蛋白質の抗体を作成し、臓器分布、細胞内局在なども明らかにした。EFハンド蛋白質に関しては、肺、砂嚢、大動脈、胎盤の4つの臓器から新しいカルシウム受容蛋白質を発見した。これらの蛋白質はいずれも2つのEFーハンド構造を有し、S100ファミリ-に属する蛋白質であった。つぎにこのカルシウム受容蛋白質の細胞内標的蛋白質の検索を行った。その結果、肺カルサイクリンの標的蛋白質は分子量約5万の新しいアネキシンであることが明かとなった。刺激によって喚起された細胞内カルシウム情報が、カルシウム受容蛋白質、カルシウム依存的リン脂質結合蛋白質の二つに分岐し、情報カスケ-ドの下流で互いに影響しあっていることが直接的に証明されたことは、カルシウム情報系が単純な単線の経路ではなく、多数の機能蛋白質が互いに調節しあう複雑なネットワ-クを形成していることを強く示唆した。今後はこれらのカルシウム結合蛋白質の相互作用と蛋白質リン酸化反応の関係について検討してゆきたい。
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