本研究では、X線での2種類のPLD修復が、ブレオマイシンのような薬剤でも誘導されるかどうかを検討する。薬剤の傷や修復機構が放射線に比べ明かであるだけに、PLD修復機構の解明の突破口になると期待される。 方法:培養細胞としてV79細胞を、薬剤としてブレオマイシン、マイトマイシンC、シスプラチナ、mAMSA等の抗癌剤を用いた。早いPLD修復は、不等張塩溶液を処理した時の生存率の低下を指標にして測定した。遅いPLD修復は、条件づけた培養液(CM)で10時間処理をした時の生存率の上昇を指標にして測定した。薬剤は37℃、30分間処理した。処理後直ちに、不等張塩溶液(0.5MNaCl/PBS)で37℃、20分間処理か、CMで10時間処理した後、コロニ-形成をさせ生存率を求めた。 結果:テストした薬剤の全てにおいて、遅いPLD修復は観察されたが、早いPLD修復は、ブレオマイシだけにしか観察されなかった。遅いPLD修復が傷の種類を問わず観察されたことは、この修復自体が特定の修復機構ではない可能性がある。遅いPLD修復とは、これまでの定説のようにPLDを致死障害にする過程を阻害するが、修復する過程は阻害せず、その結果生存率が上昇する現象であると考えられる。その致死障害にする過程とは何かが今後の研究の課題であろう。早いPLD修復は、紫外線では観察されず電離放射線特有の傷と考えれていた。この修復が、ブレオマイシンにのみ観察されたことは、これまでブレオマイシンが電離放射線の障害に似た傷を作ると言う定説を支持した。興味深いことには、X線に比べブレオマイシンの方が不等張塩溶液に数十倍も感受性であった。ブレオマイシンがリボフィリックなことから膜周辺の局在が考えられ、不等張塩溶液に感受性なPLDは、膜周辺(特に核膜)の傷であることが示唆された。
|