研究概要 |
本年度は正常11番染色体を移入したAーT細胞を用いて放射線損傷からの回復能力および染色体異常頻度について検討した。染色体異常頻度:放射線誘発染色体異常は放射線による細胞死の直接の原因と考えられており、AーT細胞でも放射線による細胞死と同時に染色体異常が高頻度に誘発される。1Gy照射のAT5BIVA細胞の染色分体異常は同線量照射の正常細胞NYaMo,MRC5SV1IGIの3、4倍高いトランスフォ-ム細胞はクロ-ンによって染色体数が異なるためにこの値は100染色分体数当りに標準化してある。放射線で誘発される染色体異常はGap,Ringが大部分でExchange型は少い。正常11番染色体移入クロ-ンではExchage型染色体異常数は不変であるが,Gap,Ringは大巾に低下して,結果として染色体異常数は正常細胞の誘発レベルに迄低下する。このように正常11番染色体移入により染色体異常頻度の回復がみられるので,放射線致死感受性の結果と同様に11番染色体上にAT遺伝子が存在することが示された。 放射線損傷からの回復能力:放射線照射した細胞を0.5MNaClで20分間高張処理すると,非照射細胞では効果がないのであるが,生存率が線量依存性に低下する。この現象は放射線誘発のDNA損傷の回復を高張処理が阻害、あるいは損傷を固定するためと解釈され、この回復を短時間で終了することからfastPLD回復と呼ぶ。本実験で使用した正常細胞では約1時間の回復期で4〜5倍の生存率の上昇がみられた。これに対して,AーT細胞ではFastPLD回復がないとされていたが、本実験で使用したAT5BIVA細胞ではわずかながら回復がみられた。その回復能力はMRC5VITGI細胞に比較して顕著に小さい。放射線致死および放射線抵抗性DNA合成で正常への回復を示した11番染色体移入クロ-ンAT11/3ではfastPLDからの回復能力が親AーT細胞AT5BIVAより大きくMRC5VITGI細胞と同程度になった。11番染色体移入によりfastPLDからの回復能力も正常化に戻ったと思われる。
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