活性酸素の毒性、特に化学物質の変異原性や発がん性への関与とDNAへの作用機構を明らかにするため、大腸菌の各種活性酸素種に対する高感受性株(DNA修復変異株であるBW9109[xth]、RPC500[nfo]、RPC501[xth nfo]、TN1005[recA]およびcatalase欠損株UM196[katGE])を用いて、以下の事項、すなわち、1)活性酸素あるいは活性酸素増産剤として知られている過酸化水素(H_2O_2)およびO_2^ー増産剤Methyl viologen(MV)とPlambagin(PB)によるDNA損傷や修復機構、2)金属化合物、特にセレン化合物によるDNA損傷における活性酸素の関与、3)フォトダイナミック作用によるDNA損傷における活性酸素の関与、さらに4)活性酸素低濃度処理による防御系の誘導について検討した。 その結果、1)増殖条件における各菌株のH_2O_2に対する生存率は、BW9109、RPC501、TN1005、UM196は高感受性を、RPC500は抵抗性を示した。また、O_2^-に対してはRPC501のみが高感受性であった。これまで、O_2^-は細胞内でH_2O_2、続いてOHに変化してDNA損傷を生ずると考えられてきたが、この結果は別のpathwayの存在する可能性を示している。2)各菌株は増殖条件で亜セレン酸に対して高感受性を示したが、この高感受性は、窒素ガス吸入によって消失した。また各菌株を低濃度MVで前処理すると致死濃度の亜セレン酸に対して抵抗性を獲得するが、H_2O_2前処理ではこの現象は見られなかった。3)食品添加物である合成赤色着色料7種のうち、赤色3、104、105号およびAcridine Orangeが、蛍光灯照射によりRPC501やUM1[KatGE]、さらにTN1005などに強い致死作用を示した。この致死作用は窒素ガス吸入により消失した。4)各菌株を低濃度のH_2O_2やO_2^-増産剤で前処理すると、formaldehydeなどaldehyde化合物の致死作用に対し、抵抗性を獲得することを見いだし、前者にはSOS反応の誘導が、後者にはaldehyde dehydrogenaseが関与することを確認した。 本研究から、亜セレン酸や色素光増感による細胞の致死作用に、活性酸素種が関わる可能性を見いだし、O_2^-やH_2O_2などによるDNA損傷やその機構、また有効な防御系は異なっていることが明らかにされた。
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