トリチウムβ線のリスク評価に当り、哺乳類組織中最も放射線感受性が高い胚あるいは胎児へのトリチウムβ線の影響の研究が求められる。特に、RBE算出をするため、線量効果関係を明らかにし、等しい線量率のX線あるいはγ線の連続照射の効果と比較できる定量的研究が必要である。私達はこれまでにマウス試験管内受精、培養系を用いて、着床前期胚発生障害、すなわち胚死(胚盤胞形成不能)および第一卵割期染色体異常を指標として、この線に沿った研究を行い、HTOーβ線のRBEがた1から2であることを明らかにした。 しかし、一般公衆のトリチウムによるリスクを考える場合、着床後期胚の障害がより重要である。そこで、本研究においては上記の研究をさらに着床後期胚発生にまで拡大し、細胞分化障害、中枢神経系障害を指標としたRBE測定を開始した。昨年度に引続き本年度は、トリチウム飲料水投与妊娠マウスの胎児への影響を指標としたトリチウムβ線のRBE測定の基礎実験のひとつとして、 ^<137>Csーγ線朝続照射の胎児への影響を検索した。 実験にはICR系雄と交配されたBC3F_1雌マウスを用い、妊娠初日より各種線量の ^<137>Csーγ線を連続照射し、出生直前の胎児の体重、脳重量、脳のタンパク質量およびDNA量を測定した。一腹胎児数(litter size)ならびに吸収胎児数も3.5gy以上の照射群で有意な減少が見られ、上記すべての指標についても線量に依存した減少が観察された。平成4年度に計画されているトリチウム飲料水投与実験の結果と併せてトリチウムβ線のRBEの算定に利用されるデ-タとなる。一方、細胞分化障害を指標としたRBE測定のためのin vitro細胞分化系の開発を目的としてマウス肢芽細胞培養を試み、放射線影響の定量的解析、RBE測定の系を確立した。
|