研究概要 |
1.多雪山地である北アルプスの分布する餓鬼ノ田圃において泥炭層を採取し、無機物の混入率および分解度の変化に関する物理的分析をおこなった.その結果,以下の点があきらかとなった. (1).当泥炭地では,約12000年前頃からの一時的な多雪化に対応して,泥炭層の堆積が始まり(第一沼沢化),その後現在まで連続的に堆積してきた.8ー9000年前頃からの本格的多雪化に対応して,安定した泥炭堆積期となる(第二沼沢化).第二沼沢化が始まる以前は斜面の安定性が低かったため,尾根部にある餓鬼ノ田圃に比べて,北アルプスの山麓部ではその影響を強く受けて泥炭の堆積開始が第二泥沢化まで遅れた. (2).第二沼沢化以降の泥炭層は本木質遺体にとみ,その以前に比べると少ないものの無機物もほぼ定常的に混入している.花粉分析から,相対的にやや乾燥した環境が示唆される.Ahテフラが降下した直後の6000年前頃は,尾根部にある餓鬼ノ田圃では泥炭の堆積速度が著しく小さく,とくに乾燥していた可能性が高い. (3).3ー4000年前頃から,低温化と消雪時期の遅れにともない,泥炭層の堆積は最も活発となる(第三沼沢化).当地では,主な地下水供給方向と泥炭地が拡大できる緩斜面とが反対で,変形ブランケット泥炭地となった. 2.餓鬼ノ田圃で第三沼沢化が始まった頃,南岸低気圧で雪が降る奈良県東部の曽爾高原お亀池湿原では逆に地下水位が低下している. 3.マツ属花粉の急増で示される人為的な自然林の破壊は,餓鬼ノ田圃では表層(深さ3cm)で認められ,お亀池湿原では1500ー2000年前頃から認められる.大台ケ原ではスギ属花粉の急増から,数100年前頃から始まった.これらは平野からのアプロ-チの難易度を反映し,難しい地域ほど自然林の破壊が遅いことを示している.
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